ミストCVD(Mist CVD)開発の経緯
私は(株)神戸製鋼所勤務中の1994年から3カ年ほど(財)国際超電導産業技術研究センターへ出向し酸化物超電導材料の研究をしました。その中で超電導の構成元素を溶液の中で均一に分散させ、さらに前駆体の構造を最終生成物(膜や粉体など)をイメージして合成することで、材料製作の低温下、低エネルギー化が可能に出来るであろうと推察して研究を進めました。この様な研究活動の中でプラズマCVDを研究されていた東京工業大学の水谷惟恭教授とNbBa2Cu3Oy薄膜形成の共同研究を1996年に始めることになりました。どの様な前駆体を合成し、セラミックス圧電体を用いて前駆体を含む溶液を効率よくミスト化してプラズマの場に導入すればどの様な特性を持った超電導薄膜が出来るのかが研究テーマでした。その成果は、下記の2ペーパに詳説されています。
・S.Nagata, N.Wakiya, Y.Masuda, S.Adachi, K.Tanabe, O.Sakurai, H.Fukakubo, K.Shinozuka and N.Mizutani. The Proceedings of The 4th IUMRS International Conference in Asia,Sep.16-18,1997, Chiba, Japan. ・S.Nagata, N.Wakiya, Y.Masuda, S.Adachi, K.Tanabe, O.Sakurai, H.Fukakubo, K.Shinozuka and N.Mizutani Thin Solid Film 334(1998) 87-91
私は1997年に株式会社神戸製鋼所に復帰しましたが、上記研究のさらなる展開、課題解決を期しておりました。また、産学連携による産業の活性化も時代の潮流になり始めた頃でした。この頃、友人二人が立ち上げたセラミックス、ガラスを基本にした技術、製品の開発・製造、また海外新規製品の国内拡販を目的とするベンチャー会社/セラミックフォーラム(株)にセラミックスの専門家として参加することになりました(2002年)。セラミックフォーラム(株)の創業者の中に日本曹達の出身者がおり、彼はスイス工科大学が開発したスプレーパイロリシス法を国内に導入しITO透明導電膜を製造した経験を持っていました。スプレーパイロリシス法は原料を溶液化し、圧電体を振動させて溶液を霧化し基板上に高速でスプレーする技術で私がやってきたミスト法に類似していました。スプレー法より微細なミスト粒子を用いればより緻密で、表面がスムーズなファインな成膜が可能になるとミストCVD法の研究開発の展開を模索していました。
この様な期待を抱きながら産学連携を指向して大学等の研究者と面談する中で京都大学の藤田静雄准教授(現 教授)と出会う機会を得ました。藤田先生がMOCVD法など用いて薄膜作成の研究をされていることを知っておりましたので、ミストを用いた研究をして頂けませんかと持ちかけました。藤田先生もMOCVD法に原料の入手困難性、高価、環境負荷の問題意識を持って居られたので、ミストを用いることでこれらの問題を少しでも解決出来るのではないかとの期待からミストを用いる成膜法の研究開発を共同で始めることになりました。また、この時、化学工学科の修士学生であった川原村敏幸君、西川浩之君もミストを用いる成膜法に興味を持って藤田先生、谷垣昌敬先生(元 化学工学教授)の元で修論のテーマとして実務の研究作業をしてくれたのも幸いでした。 また、この研究開発がより多くの中小企業に参加頂くことによって彼らにも新製品が得られる事を期待して関連する技術・製品を持つ数社の参加を呼びかけ、私が企業間のコーディネーションも担当して複数の企業が参加する形で大学との共同研究を進めました。参加企業は、(株)エムテック(成膜装置)、本多電子(株)(セラミック振動子及び回路)、(株)トリケミカル研究所(化学原料)となりました。
2003年からは(独)科学技術振興機構の事業である京都ナノテク事業創成クラスター事業に参加させて頂き、開発を支援頂きました。 2008年に、私は(株)陶喜を新たに創業させミストCVD技術の開発・改良を加速させ、また、現在では研究開発用を中心に装置の販売も始めております。
京大、藤田先生らに研究開発頂いた初期の成果を下記に上げさせて頂きます。
応用物理学会など口頭発表
1)第65回秋季応用物理学会学術講演会1a-X-4.東北学院大学[仙台]2004年9月14日
「超音波噴霧熱分解CVD法によるZnO透明薄膜の作製とその特性」
川原村 敏幸、西川 浩之、亀谷 圭介、増田 喜男、谷垣 昌敬、藤田 静雄
2)第52回春期応用物理学関連連合講演会 31a-E-3. 埼玉大学[さいたま]2005年3月29-1日
「超音波噴霧熱分解CVD法によるZnO透明薄膜の作製とその特性[2]
川原村 敏幸、西川 浩之、亀谷 圭介、増田 喜男、谷垣 昌敬、藤田 静雄
3)第66会秋季応用物理学会学術講演会8p-G-8. 徳島大学[とくしま] 2005年9月7-11日
「ファインチャネルミスト[FCM]法によるZnO透明薄膜の作製」
川原村 敏幸、西川 浩之、亀谷 圭介、増田 喜男、谷垣 昌敬、藤田 静雄
4)第53回春期応用物理学関連連合講演会 22a-R-5. 武蔵工業大学[東京]2006年3月22-26日
「ミストCVD法による各種金属酸化物薄膜の作製」
川原村 敏幸、西川 浩之、須磨 隆富、谷垣 昌敬、藤田 静雄
5)第67会秋季応用物理学会学術講演会30p-ZE-5. 立命館大学[草津] 2006年8月29日-9月1日
「ファインチャネルミストCVD法によるZnO透明薄膜の作製」
川原村 敏幸、西川 浩之、亀谷 圭介、増田 喜男、藤田 静雄
6)第54回春期応用物理学関連連合講演会 28a-ZN-6. 青山学院大学[相模]2007年3月27-30日
「ミストCVD法による各種金属酸化物薄膜の作製」
川原村 敏幸、西川 浩之、増田 喜男、藤田 静雄
論文での発表
(1)Yudai Kamada, Toshiyuki Kawaharamura, Hiroyuki Nishinaka and Shizuo Fujita, “Linear-source ultrasonic spray chemical vapor deposition method for fabrication of ZnMgO films and ultraviolet photodetectors”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.45, No.32, pp.L857-L859, Aug. 2006.
(2)川原村敏幸, 西中浩之, 亀谷圭介, 増田喜男, 谷垣昌敬, 藤田静雄, “ファインチャネルミスト法によるZnO透明薄膜の作製とその特性”, 材料, 第55巻, 第2号, 153-158頁, 2006年2月
(3)Hiroyuki Nishinaka, Toshiyuki Kawaharamura, and Shizuo Fujita, `Low-temperature growth of ZnO thin films by linear source utrasonic spray chemical vapor deposition”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.46, No.10A, pp.6811-6813, Oct. 2007.
(4)Hiroyuki Nishinaka and Shizuo Fujita, “Step-flow growth of homoepitaxial ZnO thin films by ultrasonic spray assisted MOVPE”, Journal of Crystal Growth, Vol.310, Iss.23, pp.5007-5010, Nov. 2008.
(5)Hiroyuki Nishinaka, Toshiyuki Kawaharamura, and Shizuo Fujita, “Growth of ZnO nanostructures by ultrasonic spray chemical vapor deposition using Au catalyst “, Journal of Korean Physical Society Vol.53, No.5, pp.3025-3028, Nov. 2008.
(6)Toshiyuki Kawaharamura, Hiroyuki Nishinaka, Yudai Kamada, Yoshio Masuda, Jian-Guo Lu, and Shizuo Fujita, “Mist CVD growth of ZnO-based thin films and nanostructures”, Journal of Korean Physical Society, Vol.53, No.5, pp.2976-2980, Nov. 2008.
(7)Daisuke Shinohara and Shizuo Fujita, “Hetero-epitaxy of corundum-structured α-Ga2O3 thin films on α-Al2O3 substrates by ultrasonic mist chemical vapor deposition”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.47, No.9, pp.7311-7313, Sept. 2008.
(8)Jian-Guo Lu and Shizuo Fujita, “Hydrogen-assisted nitrogen doping in ZnO”, Physica Status Solidi (a), Vol.205, No.8, pp.1975-1977, Aug. 2008.
(9)Toshiyuki Kawaharamura and Shizuo Fujita, “An approach for single crystalline zinc oxide thin films with fine channel mist chemical vapor deposition method”, Physica Status Solidi (c), Vol.5, No.9, pp.3138-3140, June 2008.
(10)Toshiyuki Kawaharamura, Hiroyuki Nishinaka, and Shizuo Fujita, “Growth of crystalline zinc oxide thin films by fine channel mist chemical vapor deposition”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.47, No.6, pp.4669-4675, June 2008.
(11)川原村敏幸, 西中浩之, 藤田静雄, “ミストCVD法の薄膜作製におけるファインチャネルおよび衝突混合の効果”, 材料, 第57巻, 第5号, 481-487頁, 2008年5月